旅行が苦手だという話

 旅行が苦手だ。
 とにかく旅行が苦手だという話をするので、旅行が好きで好きでたまらない人はこの時点で読むのをやめてほしい。

 まず、計画を立てるのがめちゃめちゃ苦手だ。計画を立てよう、と思うだけでもう三本くらい立ったのではないかというくらい気力を費う。一日歩き回る当日よりおそらく費う。それくらいかったるく、つらい。
 単なる外出もメインの目的以外は決めないし決めたくない。そしてたいてい決まらない。なんとなく、その場で決めたい。予定外があったときにパニックになるから、なりたくない気持ちが強すぎる。だから同じ場所を同じように巡っている。同じ店。同じ道。同じ音楽。
 一人で近所に行くならそれでもいい。旅行もそうすればいいのはわかる。一人で行け。しかし一人で行くとなると、途端にまあいいかなと思い始める。行くまでもないかもしれない。交通費をかけてそこまで行く必要はないかもしれない。そんなことを考えるうちに意欲はしぼみ、外出予定はなかったことになる。
 これは目的の魅力が足りないとか、そういう話ではない。諦めるならそれまでとかそういう話では一切ない。正直意欲の問題でもない。自分に金をかけるのが嫌なのだ。特に消えもの――食事に代表されるような、体験の類、そういうものに金をかけたくない。自分がその体験を得たところでたいした感想も出せないし、わざわざその価値をかけるほどの己ではないと思う。だから一人で行くのは金の無駄だと思ってしまう。体験そのものではなく、得る自分に価値がない。だから得る必要はないし、どうせならほかの誰かがそれを得て幸せになってほしい。
 だから、誰か同行者がいるならこれは考えなくなる。その人のために金をかけるし、その人のための体験なら喜んで行く。主体が自分ではないからだ。自分を他人に供せるなら問題はない。自分が体験するのではなく、その人が体験するその一部に自分がいる。だから自分のために金を払うわけではない。そう思えるならいい。ただし人と出かけるには計画が必要なので、これはこれで苦手だ。話が戻ってくる。

 だからまあ、旅行は苦手だ。そしてこれはとても旅行に失礼だから、家から出ない方がいいと思う。

 なお、実際に計画と違うことになったときのリカバリはできる方だとは思う。そんなもんだよなと思うだけで、さしてストレスにも思わない。だから計画をたてる自分が恐れているのは幻だ。わかっていても、それが嫌だ。