映画が好きではない

 映画が好きではない。

 この段階で「おっとそれは映画好きの私に対する挑戦か?」と思う方や、「好きな人を否定しないでください! 映画はいいものです!」と大声で叫びたくなる方は、たぶんこの後の話を読むべきではないと思うので、静かにページを閉じていただきたい。
 私がこの後お話しすることは、映画好きに対する挑戦でもなければ、映画を好きな方に対する否定でも何でもない。私が個人的に、あんまり好きではない、という話だ。
 それを思考の整理がてら書くだけなので、どうか気にしないでほしい。


 好きではない理由は、まあ本当に大したことではない。
 きついのだ。単純に。あのでかい画面で、でかい音で、強い光を浴びせられるのが嫌なのだ。それが映画という娯楽なので、もうこれは単純に合わないのだと思う。特にでかい音が厳しすぎる。頭が痛くなる。終わると耳がぼーっとする。なので、自分から見に行くことはない。
 だが、友人の中には映画に行きたがる者もいるので、たまに付き合いで行く。映画が好きな人間の前で、映画が嫌だという顔をするわけにもいかないので、それなりに楽しさは装うが、正直その二時間だか何時間だかを拘束されるならカラオケに行きたい。カラオケもたいがいでかい音だが、歌っているのも喋っているのも友人なので構わない。ちなみにオタクなのでカラオケで布教会というか鑑賞会をしたこともあるが、基本勘弁してほしかった。音がでかすぎる。


 というかここまで書いて思ったが、自分は、映画の光も音も確かにきついが、興味がないものを延々見させられるのが嫌なのだろう。しかもそれに対して3000円近く払う必要があるのも嫌なのだろう。光と音の強い映画が好きではないうえに、付き合いで3000円かそれ以上を支払い、かつ2時間以上拘束され、終わってから感想会という名の「寝てなかったか確認会」を開かれるのが嫌なのだろう。うーん、書いてみたがだいぶ嫌だ。
 そもそも布教されるまで見ていなかった作品は、そも興味がないので、無理やり摂取させられるのは苦痛でしかない。興味があれば自分で見るんだわ。映画に連れていかれたりDVDやらブルーレイを再生させられなくても自分で買うんだわ。そこから興味がわくことはないんだわ。嫌なだけなんだわ。そうは思うが、まあ短い人生の半分くらいは付き合いのある友人のことなので、付き合う。嫌だとは言いづらい。なので断り文句を探すしかない。だが悲しいことに、私は別段、優先させるべきイベントを持ち合わせていない。追っているジャンルはさほど浮き沈みがない。スマホ一つでどうとでもなる。そして私は友人にうそをついてまで約束をぶち切るのは嫌なので、付き合うしかなかったりする。それを何度か繰り返している。

 映画に三回連れていかれ、そのうち一回はなんとかかんとかという座席揺れが発生する代物で、吐きそうになった。あと興味のないDVDを善意に基づく押し貸しを三本され、感想を求められた。そして興味のない映像作品の鑑賞会を二回開かれた。嫌だといわなかった自分が悪いのだろうか? 悪いのだろうな。しかし友人にうそをつくのも嫌だったし、友人の好きなものを否定するのも罪悪感があった。だが限界だった。映画代も交通費も時間も、なぜ私が私の別に好きでもないものを摂取するために使わなければならないのか、と思うと、あまりにばかばかしかった。ついでに書いてしまうと私は一切酒を飲まないが、飲み会に連れていかれることは多かった。多く払わされるとかそういうことはなかったが、その金があったらもう少し飯がましなところに行きたかった。つまみが嫌いなわけでもないし、まあ別に行くには行ったし、払うには払ったが、私に配慮しようという気配はなかった。とはいえ私は飯にそんなに興味はないが……

 もういいだろうと思って、その友人と連絡を取るのはやめた。結婚したらしいが、それ以上のことは知らない。連絡はすべて切った。映画はより嫌いになった。二度と見に行くまいと思っている。


 さて友人の愚痴で話が変わったが、結局映画は好きではない。ドラマもアニメも興味はない。舞台劇にも興味はない。布教されることが好きではない。しかし、好きな人がいるのは否定しない。ぜひとも大いに映画を楽しみ、ドラマやアニメにのめりこみ、あるいは舞台劇の客席で黄色い声援を押し殺したり叫びを我慢したりしてほしい。ただ、皆が皆その娯楽を好きなわけではないということは理解してもらえると、私のような人が少し助かる。できればそんな人がいるんだなあくらいに頭の片隅においていただいて、想像力を働かすちょっとした破片にしてもらえると嬉しい。